2013年 夏 【唐沢美咲】

1/32
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

2013年 夏 【唐沢美咲】

  2013年 夏 【唐沢美咲】 ──────  足元を見て、思わず舌打ちをしそうになってしまった。  ──今日の為に穿いてきたブランドデザインのパンストが、伝染している。  朝、このパッケージを開いた時、あまりの薄さに心配にはなった。  穿く為に広げている時、指先のささくれに引っかかりそうになったくらいだったから。  唐沢(からさわ)美咲(みさき)、28歳。  都内の商社の経理課に勤め始めて、もう6年目になる。  入社した時はすべてがバラ色に見えた。仕事が楽しくて、行く先々でちやほやされるのも嬉しくて。  一生こんな生活が続くんだ──と情けない錯覚をしたのは、ほんの一瞬のこと。  世間で自分の年齢を言えば「まだ若いじゃない」と誰もが口を揃えて言う。  女は、25を過ぎればだんだん価値が下がっていくものだ。  美咲はそれを嫌と言う程感じていた。 .
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!