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そんな言い方はずるい、と。のぞみはもう一度そうやって悪態をつきたかった。
だが、零斗の真っすぐな瞳と優しい声で言われては、もう抗う術がない。恋をする女は、好きな男にはどうしても勝てないのだ。
「……あの」
「うん」
「じゃあ、お祭りに協力、する……」
こういうシチュエーションそのものに慣れていないのぞみの精いっぱいの反応を見て、零斗はふっと微笑んだ。
「いいの? それは別に、断ってもいいんだけど」
「ううん、あたしが妙なことにこだわってただけ、だから……零斗さんのおうちに協力できるのは、むしろ、嬉しい……」
「……判った」
零斗はそっとのぞみを抱き寄せると、そのやわらかな髪に頬ずりする。
ドキドキしながら、のぞみは零斗の腰にそっと腕を回した。そうしてやわらかく抱き合って、心の底から安堵する。
「ありがとう、のぞみ。ちゃんとしたことは、そのうちまたちゃんと仕切り直すけど……」
「うん?」
「末永くよろしく」
零斗は、その言葉を口にしたときだけのぞみに視線を落とした。その言葉と視線を受け、のぞみは頬を染める。
一生この腕の中で生きていくんだな……と、淡い未来を胸に描いた。
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