63人が本棚に入れています
本棚に追加
吾妻家の母屋最奥には、祖霊舎と呼ばれる屋内神殿がある。
そこには吾妻の人間でも限られた人間しか出入りできない。
祭りの日のみ、他の人間が立ち入ることを許される。それが、織姫を務める村の娘だ。
「俺もね、中まで入ったことはないんだけど、ここだよ」
奥まで来て、零斗は立ち止まりのぞみにその扉を示して見せる。
わずかな段差を上がったところにある、昔のものにしては大きな両開きの扉が、この先を特別な空間だということを表していた。
ひんやりと湿っぽい空気は、なるほど清廉な場所のようにも思える。
左右の扉を開けさせまいとするように、真ん中に大きな南京錠がぶら下がっていた。まるで封印だ。
「織姫は、湯浴みを済ませたらここに入って一晩眠るんだって」
「湯浴み?」
「お風呂のことだよ」
「……眠るって、一人で……?」
このような暗く湿っぽい場所で……と考えると、のぞみの背中にふと寒いものが走った。
.
最初のコメントを投稿しよう!