2013年 8月10日 【日嗣のぞみ・2】

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   吾妻家の母屋最奥には、祖霊舎と呼ばれる屋内神殿がある。  そこには吾妻の人間でも限られた人間しか出入りできない。  祭りの日のみ、他の人間が立ち入ることを許される。それが、織姫を務める村の娘だ。 「俺もね、中まで入ったことはないんだけど、ここだよ」  奥まで来て、零斗は立ち止まりのぞみにその扉を示して見せる。  わずかな段差を上がったところにある、昔のものにしては大きな両開きの扉が、この先を特別な空間だということを表していた。  ひんやりと湿っぽい空気は、なるほど清廉な場所のようにも思える。  左右の扉を開けさせまいとするように、真ん中に大きな南京錠がぶら下がっていた。まるで封印だ。 「織姫は、湯浴みを済ませたらここに入って一晩眠るんだって」 「湯浴み?」 「お風呂のことだよ」 「……眠るって、一人で……?」  このような暗く湿っぽい場所で……と考えると、のぞみの背中にふと寒いものが走った。 .
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