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それはのぞみにとっては天にも昇る心地の話だった。
──零斗の口から聞かされたものであったなら。
どこも、お年寄りというのはこういうものらしい。
のぞみにもささやかに夢見ている段取りというものがあるのだが、そんな時代をとっくの昔に過ぎてしまった老婆達にはそんな心遣いという発想すらないようだった。
少し苦い気分になりながら、のぞみは居眠りにかまけている零斗に恨めしげな視線を送る。
久しぶりの故郷だからなのか、零斗は終始リラックスしている様子で、のぞみにもきちんと気を遣ってくれてはいたが、さっきからのこの様子ではしばらく起き上がる気配はない。
媚びようとは思わない。
ただ、もし零斗が節子達の言うように、そのつもりでいてくれるのなら──自分も、判らないなりにこの空気に馴染まなければと思った。
それもこれもみんな、零斗のことを本当に好きだから、だ。
テーブルの下で、のぞみは縋るように意識のない零斗の手をそっと握りしめた。
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