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それに、付き合っているとはいえ、のぞみと零斗の間に確かなものは何もないのだ。
軽薄な、口だけの約束の真似事さえ。
「のぞみ……」
零斗は四つん這いになって、おずおずとのぞみに近付いた。
その手がそっとのぞみの手に伸ばされ、握り締める。
「ごめん。好きだよ」
「……今そんなこと言うなんて……」
「のぞみ、こっち見て」
零斗の甘やかす声に、のぞみは浮かされたように顔を上げる。
視線の先に、じっと目を凝らして見つめ返す零斗の瞳があった。
電気も点けずに、丸くあしらわれた腰窓から差し込む明るい月の光だけが頼りだった。
「俺の相手は、のぞみしかいないと思ってる。だから、来てもらったんだよ」
「……零斗さん……」
「ばあさんがどうとか、村がどうとか関係ない。俺が生まれ育った場所を、のぞみに見せたかった」
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