一寸先にいた彼女

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6月。 日中は既に汗ばむほど暑いが、夕方は一気に涼しくなって体を動かすには調度いい気候。 気だるい授業が終わって、グランドや体育館から部活動に勤しむ学生たちの掛け声が響く。 かくなる俺も、今まさにラケット片手に黄色い球体を追いかける一人。 追いかけるが、追いつけるわけではない。 ボールは俺のラケットの遥か前方を通り過ぎ、タンタンと数回バウンドして転がっていった。 「もぉー!寛貴ー。また途切れたじゃんー。」 ネットの向こうから俺を非難する声。 息を切らしながら、声の主を睨み付ける。 「俺は、素人だっつってんだろーが!逆サイドに打ち込むなっ!」 「えー?走り込んで打ち返すのが楽しいんじゃーん!」 ……楽しいのはお前だけだ。 俺はさっきから走りっぱなしで、もはや苦痛しか感じないんだけど。 バカに背を向け視線を這わすと、緑のフェンスの手前にボールを捕らえた。 遠い……。 とぼとぼとボールに向かって歩いていく。 今日何回この往復をやったことか。 コート内にいる時間より、球拾いしてる時間のが、どう考えても長いよな? 「ミツー、俺、休憩するし。」 「えー!もおー?俺、完全に不完全燃焼よー?」 「だったらテニス部入部して、跡形もなく完全燃焼しやがれ!」 歩き様に振り返り、軽くガンを飛ばす。 俺らが入っているのはテニス部じゃない。 硬式テニス同好会だ。
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