1.気がついたら、真冬のセカイだった

2/7
前へ
/13ページ
次へ
 「国境の長いトンネルをぬけると、そこは雪国だった。」なんて、名文があるけれど、私は別に国境の長いトンネルなんて抜けていない。  ただ、いつもの通学路を帰っていただけなのに、なぜか目の前には広い雪原。振り返ると、樹氷の林。冷たい風が吹くと、粉雪が舞いあがり、キラキラとしてきれいだけど、はっきり言って寒い。  ついさっきまで梅雨明けした、夏真っ盛りな東京にいたのだから、着ている服は当然、夏服。  それが、一足飛びに真冬のセカイだ。当然、寒いなんてもんじゃあない。  寒いけれど、もっと困ったことになっている。この、どの世界の、いつの時代かもわからない雪原に一人でも十分困るのに、白い大型犬のような生き物に思いきり威嚇されながら囲まれている。  いわゆる、絶体絶命。  こうなった原因はわかっている。『異相の波』に巻き込まれてしまったのだ。  私は九条史央里。どこにでもいる女子高生だ。なのに、自分のいる世界と別の世界を行き来する力を持っている。  なんでこんな力を持っているのかと言うと、どうも母親からの遺伝らしい。母が言うには、私たちのいる世界の他にもいろいろな世界が無数にあり、それぞれの世界が異なる波長を出し、お互いに干渉しないように独立して存在してるのだそうだ。ただ、時々、その世界同士が何かの拍子に近づいてしまうと、お互いの世界の波長がぶつかり、干渉しあう。この時、発生した『異相』を感じ取り、その結果、別のセカイに移動してしまうのだとか…。  なんだか、わかったようなわからないような説明だけど、とにかく、私はその『異相』に敏感に反応しやすい体質なのだそうだ。  面倒なのは別のセカイに行ってしまった後だ。自分のセカイで生じた『異相』に引き込まれたのだから、行った先のセカイの『異相』も当然わかる。  だから、その『異相』に飛び込めば、当然、元の世界の同日同時刻、同じ場所に戻れる。  だが、その『異相』を自分で探さなければならない。飛ばされた場所の近くにあればいいのだが、必ずしもそうとは限らない。空の中にあったり、山の上だったり、海の中、なんてこともある。  それを探すのが一苦労なのだ。  それだって、探す余裕があればいい。でも、今はどう考えても、探す余裕などない。ちょっとでも気を抜こうものなら、絶対にこの、犬的な生き物達のエサになる。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加