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「――と、いうわけです。おめでとうございます、ホウライミツキさん! 貴女は、この現実世界に産まれながらも、マモノビトになるチャンスを掴まれた幸運な方なのです!!」
「な……納得できることがなに一つとしてないんですけど……!?」
North latitude. 35°44′.
East longitude. 140 .
日本、千葉県、銚子市。
白亜の犬吠岬灯台に程近い、自宅アパートの玄関前で、その事件は起きていた。
ホウライミツキこと、蓬莱海月。
つまりは私の目の前で、さっきから大げさなくらいに頷いていているのは、自らをミシエルと名乗る中性的な面立ちの外人さんだ。
外人さん……少なくとも、私はそう信じたい。
シミひとつない純白のジャケットに、それに負けないくらいの肌色。
蜂蜜を陽に透かしたような、やわらかな金色のショートカット。
おまけに、目の色は作り物みたいなサファイア・ブルー。
ちょっと下がった眦と、影が落ちるくらいに長い睫毛が、彼の持つ優しげな印象をひときわ強めている。
要するに、格好いいのだこの人は。
この顔でにっこりと微笑まれた日には、特に面食いではない自分でも、ころっと騙されてしまいそうで怖い。
ああ、彼の背中でパタパタしている二枚の羽根さえなかったら……!
「納得出来ない? そうですね、ごもっともです。皆さん、よくそうおっしゃいます!」
パタパタパタ……。
「……」
それなのに、このミシエル。
さっきからわざとらしいくらいに、背中に生えている羽根のお手入れを欠かさないのだから困る。
風切りの乱れを直したり、横っちょに飛び出している綿毛を抜いたり。
作り物ではけっしてないのだと、無言で主張されているかのようだ。
時刻は午前七時過ぎ。
朝日に映える純白の翼は、現実を現実として受け入れられない私の目には、あまりにも眩しすぎた……。
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