一章 あまりにもうさんくさい天使のテーゼ!

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 どうなったんだろう、と、震える手で郵便受けを押し開けた途端。  高さ五センチ、幅二十センチほどの郵便受けから、にゅりん、と透明な身体が心太のように押し出されてきたではないか!! 「キャ――――ッッ!!」 「おおっと! 郵便受けから出てくるとは考えましたねっ! 今のはなかなかの頭脳プレーです。ホウライミツキさん、ひょっとしたらこの魔物、案外と知能が高いのかもしれません!」 「暢気なこと言ってる場合じゃないでしょう!?」  そうこうしている間にも魔物の脱走は止まらない。  四角く長い姿のまま、チュルン、と床に着地。  蛇のように鎌首をもたげ、私の足元へするすると近づいてくる。 「見事ですねー! ぱっと見の分析ですが、この魔物はおそらく、世間一般にはスライムと呼ばれるものの類でしょう。粘液に覆われた透明な身体は、弾力性、柔軟性、伸縮性に富み、早い話が変幻自在。その気になったらきっと、針の穴にだって通れますよ」 「嫌あああ――っ! こっち来ないで――っ!! 助けて下さいミシエルさん、さっきの恩を返すと思って!!」 「大丈夫ですって、ホウライミツキさん。落ち着いて、ぼくと一緒に深呼吸してみましょう。ひっひっふー。いいですか? 魔物は本来、貴女の精神体に共存していたんです。つまり、もともとは貴女の身体の一部だったんですよ。それが、ふとしたきっかけに力をつけ、実体化し、単独で外に放り出された。そのせいで、今は貴女のコントロール外にある。これは、魔物にとっても、宿主である貴女にとっても、非常に危険な状態です。速やかに、貴女の身体の中に彼を――この、わらび餅くんをですね、戻す必要があります」 「か、身体に戻す!? そそそれってつまり――うひゃあああああああああっ!! あああああ足っ!! 足元から這い上がってくるううううっ!! 冷たぁい! ヌルヌルするううううっ!! ミシエルさんっ、お願いだからどうにかして――――っっ!!」
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