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「あ、ダメですよ! それ以上暴れたら、本当に食べられちゃいますよ!」
強い力で肩を捕まれ、驚いて目を開けると、さっきまでのとぼけた様子はどこへやら。
青い瞳を厳しく光らせ、真剣そのものの顔つきでミシエルは言う。
「いいですか、マモノビトと、そのパートナーである魔物とは、根本的に共存関係にあります。魔物は本来、精神世界である魔界の生き物。魔界を離れて物質世界で生きるには、宿主の存在が絶対不可欠です。宿主の身体から分離した状態では、生命を長く保つことが出来ません。だから、少しでも生きながらえようと、魔物は宿主を捕食しようとするんです。暴れているのはそのせいです。生きるものの本能ってやつです」
「だ、だからって、おとなしく食べられるなんてゴメンですよ! ぐ、具体的に、今の状況を打開する策は何かないんですかっ!?」
ありますよ、と、事も無げに微笑むミシエル。
その笑顔があんまりにも綺麗だったものだから、恐怖にざわつく私の心が、少しだけ穏やかになる心地がした。
すると、それに連動するように、下腹部で妖しく蠢めく魔物の動きも鈍くなる。
「ホウライミツキさん、彼を拒絶しないで下さい。心で阻めば、魔物は宿主と通じることが出来ません。彼を冷たいと感じるのは、貴女の心が冷たいからです。貴女と彼との間には、互いを隔てる壁なんて、本当はないはずなんですよ。それがあるのは、貴女がなにかをきっかけに、彼を拒んでいるからです。彼が貴女から分離してしまったのは今日の朝。では、昨日、何があったのか。そこに原因があるはず。思い出してみて下さい。貴女が昨日、何を拒絶し、何を切り捨てたのか分かりませんか?」
「……私が拒絶したもの?」
コツン、と、道端の石を蹴るように。
思い当たることはすぐに見つかった。
そんなもの、わざわざ考えるまでもない。
そして同時に、目の前にあるミシエルの笑顔に、強烈な違和感を感じた。
肌に触れている魔物の皮膚が冷たさを増す。
まるで、氷そのもののように。
パジャマをめくって見てみると、魔物は私のお腹にピッタリと巻きついたまま硬直していた。
透明だったはずの身体は白く濁り、ゼリーのような柔らかさも、すっかり失せている。
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