kiss13 [モトカノ] 後半

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無言のままの小栗が、 その場を立ち去ろうとする3人を見つめ、 急に春香さんの前に立ち、頭を深々と下げた。 「すみません。少々大人気なかったです。 僕が帰ろうとしたのは、 決して、あなた達のせいではありませんから。 もう一度、ご一緒願えないでしょうか?」 と、体制を整える発言をする仕事モードの同僚を、 ただ呆然と見つめる私。 謝る必要なんか無いのに、 気を使う発言させてしまった。 小栗.......ごめん。 騙してごめん。 そして、また、 杉田が居るテーブルに率先して戻っていった。 美女3人も、申し訳なさそうに席に着く。 だが雰囲気は最悪。 出された食事を口に運ぶ皆は、 互いの気を使いあってギクシャクした状態で、 小栗でさえ、気を利かせて藤堂さんの話に相槌を打っている。 うわべだけ取り繕われた会話。 大きな机の上にずらりと並ぶ白いプレート達のほうが、 よっぽど賑わいを見せている寂しい晩餐。 とても、次回の東野さんと、 小栗のデートの約束を 取り付けるまでには進展出来そうも無い。 今日のところは、上手くこの場を退散し、 小栗と、東野さんと、 二人きりで会話をさせるチャンスを作ること。 それが、 本日の実現可能となる、唯一のミッションだろう。 「ちょっと、化粧室行ってくるね」 合図の言葉を、春香さんが告げた。 それに便乗する、藤堂さん。 「あ、私も行きます!」 さりげなく鞄を掴み、 立ち上がる私の手を小栗が掴んだ。 一瞬、 全ての計画がバレタのかと思い、 ギクリとしながらも、 平然とした態度で、本日のターゲットに振り向く。 「な? なに?」 私の耳元に口元を近づけてぼそりと呟いた。 「彼氏と、杉田と、二股掛けんの?」 すっかり忘れていた自分の嘘を、指摘されて、 頭の中がパニックに陥る。 「そ、そう言うつもりじゃ……ないけど」 視線から逃げて答えた。 「杉田と、二人きりにしてやろっか?」 ....…それは私の台詞です。 「漏れるんで。後にしてください」 と、下品な台詞を、彼にぶつける。 もっとマシな断り方ぐらい、見つからなかったのか? やはり、 春香さんのように、上品にジャブをかわせないようです。 そして、化粧室へは向かわず、店の外へ。 残るところ杉田君が脱出すれば、 ミッションコンプリート!! 後は、 東野さんと小栗、二人のデートタイムってことで。
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