kiss 17 [Moon Crying]後半

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「な.....なによ.....」 「聞いた。経理部に異動だって?」 「へ? 経理部!!!」 自分の知らない内示を、既に同僚が知っていることに驚かされる。 てか経理部?? あの土瓶眼鏡達と、お仕事すんの??? 私の驚きように、ただならぬものを感じたのか、小栗は目を泳がせた。 「あれ? 聞いてなかった?」 「ええ。まだ聞いておりませんでした」 「ア。そうなんだ。それはそれは失礼しました!」 スティール製の柵に寄りかかり、 入道雲が席巻する青空を小栗は眩しそうに見上げた。 「で。聞いた?」 「なにが?」 もう、何を言われても驚かないぞ、 経理部が確定した時点で、 地獄絵図は出来上がってるからね!  ふん!! 「俺も異動」 え......。 何.....それ。 「大分前から打診はされてたんだけどさ、 ヤッパリ俺が行くのが妥当だってことで確定して、 9月から、行くことになったんだ」 「9月からって......、すぐじゃん。 で、何処に異動?」 「フランス」 小栗の視線が空から降りてきて、 私を見つめた。 「まだ、正式に発表されてないんだけどさ、 フランスのGE社との協業で新規開発部門の橋渡しの責任者として、 俺がフランスに行くことになった。 3年の任期らしいけど、 そこから先は、まだ俺もよくわかんないし.....。 GE社側が、契約時から俺を押してくれてさ....。 なんだか、とんとん拍子で決まったんだよね」 明るい調子で小栗は言う。 それって多分、凄いこと。 「栄転.....、てやつ?」 「そうだね.....」 言葉を濁して、小栗は俯いた。 いつかは、 そんな日が来るんだろうって思ってた。 彼がステップアップしてることも、 いつまでも私の左隣のデスクに、彼がいるわけじゃないって事も、 いつか離れてしまうことも、判ってたのに。 「おめでとう」 でも、早すぎるよ。 「佐藤も、頑張れよ」 どうしていいか...…わかんないよ。
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