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☆☆☆
赤い鉄塔が聳え立つ此処にやって来るのは、2度目となる。
そして、今回も彼のほうが先だった。
だが、前と異なるのは彼との関係だけじゃなくって、
「やあ」
柔らかな笑顔で微笑む成宮氏。
その笑顔は何処かホッとさせられて、
以前感じていた、射抜かれる視線に臆することは、この先無いのかもしれない。
「この前と同じメニューでいいかな?」
黒革が貼られたメニューを持ってきたウェイターを待たせて、彼が笑顔で尋ねる。
「ええ、お任せします」
その笑顔に負けないぐらいのスマイルを見せた。
藍色のゴフレットに注がれる透き通る水は、深い海の底に思える。
その中に生息する生命を想像しながら、一口含んだ。
喉が渇いている。
彼に会うことを緊張したと言うより、
成宮氏と女友達としての会話をどう楽しめばいいのか、
言葉のやり取りについて、約束をした日から頭を悩ませていた。
小栗とみたいな、くだらない内容を話すわけにも行かないし...。
恋人同士の甘い囁きのほうが、
異色な場所にいる友人関係の会話より、ずっと簡単な気がしてならない。
「乾杯」
フルートグラスの中で気泡が優雅に踊る。
黄金の液体で充分に喉を潤した後、成宮氏は目尻を下げて、私に笑いかけた。
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