kiss 17 [Moon Crying]後半

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「暫く忙しくてね。 なかなか君との約束を果たせずにいて、すまなかった」 ....いえ。そのまま果たさなくっても構わなかったです。 「お忙しかったんですね」 同意をして、私もグラスを傾ける。 軽い口当たりに、つい飲みすぎてしまいそうで、 セーブをかけなければ、また以前と同じ失態をしかねない。 「今度....…、独立するんだ...」 え? 「証券業界にいる人間にとって、 ごく当たり前のことなんだが、 ある程度ノウハウと、人脈が出来た時点で、 自分の城を構える証券ディーラーは多くってね。 僕は長いこと日皇にいたけれど、 ようやく自信がついて、独り立ちしようと決心したんだ」 「独立....ですか」 「軌道に乗るまで、どれぐらいの時間がかかるかは判らない。 だが.....、自分の実力を信じてやるほか無いからね。 だからもう、 日皇証券の成宮じゃないんだけれど、それでも友人として付き合ってもらえるかな?」 謙虚な姿勢で彼は尋ねた。 彼が、以前言った言葉を思い出した。 肩書きなんかどうでもいいという彼の発言。 もしかしたら.... あの時から、独立について考えていたのかも知れない。 「勿論です。どんな成宮さんであっても、地の果てまでご一緒しますよ」 と少し大げさな事を言う。 すると成宮さんは、眉を少しだけ下げて、いつもの微笑みを見せた。 でも何処かそんな笑顔も可愛いと感じるのは、彼の性格をちょっぴり知ったからかもしれない。 「そう言ってくれると思った。やはり、君を選んで間違いなかったな」 ビルの屋上で点滅し続けるライトを眺めながら、彼は告げる。
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