kiss 17 [Moon Crying]後半

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「僕がいる業界はね...。 一匹狼たちの集まりで、 数字を載せるために、足の引っ張り合いなんか日常茶飯事なんだ。 新しい人間が来れば、 自分のポストを守るために、とことん潰しに掛かる。 自分の成績を上げるという、 純粋な目的はいつしか薄れて、欲の皮を着た狼ばかりがのさばる世界。 それが、僕のいる日常。 ふと気づくと、 周りには餌を放ってくれるのを涎を垂らして待つハイエナと、 僕を蹴落とそうとするライオンしかいなくって.......。 いつも........、胸の奥に氷の刃を抱えて生きていた」 遠くの景色を眺めながら、彼は淡々と語る。 その横顔は何処か寂しげで、今迄ずっと孤独であったのだと告げていた。 「女性も同じでね。彼女たちの目の奥に映るのは、欲だ。 僕から受け取れる対価を計算して近づいてくる。 それはそれでわかりやすくて、いいが、 愛も数字と同じように扱っていたら、いつの間にか女の愛し方が、判らなくなっていた。 けれど、 君と出逢って、僕は変わったんだろう」 成宮さんが、私の方へ視線を戻した。 そこに在るのは、心の底から溢れ出る幸せな笑顔。 きっと今、彼は、自分の人生を謳歌して生きてる。 自身に満ちた成宮さんが、私との最初の出会いを口にした。 「最初に会った時、君は僕を頑なに拒んだだろう?」 「それは....。友人を軽蔑したと思ったので、つい...」 素直に事の真相を語った。 「つまり君にとって僕は、肩書きの無いただのオトコとして見ていた」 「次元.....違うって思っていたので、最初から相手にされるとも思って無かったですし」 「君のそういうところ、そこに惹かれたんだな」 しらっと、彼は告白を放り投げて、 目の前に置かれた皿の肉に手を伸ばした。 .....ちょ....と。待って、 今、もしかして、口説かれてます????
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