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翌日、佐藤にとにかく頭を下げた。
信頼回復には、時間がかかったとしても、
佐藤に拒否され続けるわけには行かない。
「いーよ。べつに」
いつもの如く佐藤は「いーよ」と受けたが、
その言葉は、見た目上の「いいよ」でしかない気がした。
出来ることなら一日中、佐藤に謝り続けていたかったのだが、
そういうわけにも行かず、
四方山部長と共に、今月の山となる契約式に向かった。
本来なら最高に高揚する席なのだが、
佐藤との一件のせいで、
今日の俺は、どこか冷淡で、俯瞰で物事を見ている気がする。
それが功を奏してか、
大事な式の間に、緊張することなく仕事を進めることが出来た。
「君の度胸には、毎回驚かされるよ」
と、今回の仲介役を買って出た遠山商事の専務が、
俺の肩を叩いて、労いの言葉をくれた。
今日の締結式も含め、
たかだか3年足らずの俺には、雲の上の人々とする大きな仕事ばかりだ。
「これもいい経験だ」と、四方山部長の言葉通り、
俺は、いい経験を沢山させてもらっている。
だが今日ばかりは、仕事よりもなにより、
佐藤とのことを解決しなくてはならないという頭があって、
気づくと俺の足は、
佐藤のいるだろう会社へと、向いていた。
「何しに来たの?」
佐藤はいつもどおりの憎まれ口調で、俺をオフィスに向かい入れた。
普段通りであることが無性に嬉しくて、笑みが漏れる。
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