2546人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「おい...…、嘘だろ??」
静かなのはマンションの中だけだ。
一歩外に出れば、アスファルトを激しく叩く横殴りの雨が全身を襲う。
案の定、一歩外に出ただけで、
着ていたトレーナーは、雨を吸い重量を増した。
重い衣服に体の自由が奪われ、
頭頂部を叩く雨は、次第に強くなっていく。
「東野さん!!!」
思い切り叫んだ。
しかし、豪雨の中では、声は雨の壁で完全に遮断され、意味を成してない。
「東野!!!」
それでも俺は叫んで、
そう遠くない場所にいるはずの彼女を探した。
嵐がもたらした小川が、
平坦な道の上でとぐろを巻き、所狭しに、深い池を作り出していた。
青白い蛍光灯の明かりと、
立ち並ぶオフィスビルの棟は、
殆ど深夜にかけては無人になってしまい、車通りも無い。
特に今夜は、この嵐の中を通過する車も無くて、
この世界には、
俺しか人間がいないのではないかと思えるほどに、
異質な空気を放っていた。
激しく降り注ぐ雨で視界が殆ど遮られている中、
彼女の名を呼び続ける。
最初のコメントを投稿しよう!