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政基はもちろん入籍だけで済ませたいなんて言ってない。けれどこの状態で結婚式までするのはしんどい。さやかちゃんが少し首を傾げてとんでもない事を言った。
「それなら、いっそ、麻衣子さんと一緒にやればいいんじゃないですか?」
「あら、さやかちゃん。いいこと言うわね。どうする百合江ちゃん?」
それだけは勘弁して下さいよ。麻衣子と一緒になんかやったら、どんな大げさな事になるか。
「わかった。やる。一人で、いや政基と二人で、自社ビル出来てからひと月後に必ずやる」
とっさにでた言葉に自分で嫌になる。有言実行。これはSEASONSの掟なのだから。
どっぷりと疲労感に包まれて自宅マンションに帰ると、政基が待ち構えていた。なんだろう? 別に連絡なんかなかったし、用事でもあるのかな? 彼は私に気がつくと手を上げた。
「政基どうしたの?」
「ああ。ちょっと」
妙に歯切れの悪いセリフになんだか不安になる。
「いつから、待ってたの? もう九時だよ?」
「いや、俺もついさっき来たとこ」
ついさっき、来た雰囲気じゃあなさそうなのは気のせいだろうか?
「とりあえず中に入れてくれないか?」
「ああ、そうだね」
私たちはエントランスに入り、エレベーターのボタンを押した。部屋に入り電気をつける。バタバタとエアコンをつけたり、コートを脱いだりする。
「お腹すいてる? 私今日、済ませて来ちゃった」
「俺も食べてきた」
私はひとまず、政基に缶ビールと、サワークリームとクラッカーを渡す。
「ちょっと着替えてくるから、待ってて」
寝室に入って、スーツから、お気に入りの、黒に小さなピンクのドットが着いているルームウェアの上下に着替えて、針山並みに刺さっているピンを全部抜いて髪をほどいた。リビングに戻ると、政基がいつになく緊張した顔で座っていた。
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