8 six month later

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カサブランカの香りが漂う。純白の大輪の百合の花。お母さんが大好きだった花だ。   私の名前はお父さんが付けた。私が生まれて、女の子と分かった瞬間に迷う事なく、この贈り物をくれた。   愛する人がこよなく愛した花の名を付けてくれた。私の名を呼ぶ時、お父さんは何度だってお母さんの面影を描いたに違いない。   私は本当なら、今日この日に誰より祝福をくれたはずの人の代わりに、この花を携えて、これから先、政基と共に歩む事を誓うのだ。 「百合江ちゃん、やっぱりそのドレスで良かったじゃない」 「百合江さん、綺麗ですよ。ウェルカムボードすごく素敵でした。あれ、百合江さんが描いたんですよね?」   カサブランカの香りに酔いしれていた私をお馴染みのこの二人が一息に現実に戻してくれる。まったく、今日くらいはロマンチックに回想とか、ゆっくりさせてもらいたいものだけれど、どうやらそれは許されないらしい。   まあ、仕方ないよね。この二人はこの先の私の人生から外せない二人だ。   ある意味政基よりも影響力があるかもしれない。   でもね、せめてノックしようよ! いくら何でも! 花嫁の控え室だよ? デリケートな空間でしょうが! 「慌ただしく準備した割には上出来みたいね。ふふふ」   麻衣子は間もなく臨月になるお腹に手を当てる。赤ちゃんの成長はすばらしく順調で、今月いっぱいまで働くと言い切っている。赤ちゃんに心から感謝したい。本当にこの半年間、私達は多忙だった。   銀行から多額の融資を受けるためにSEASONSは株式会社になった。  そうですよ。自社ビル先月完成しました! 直売店もオープンしましたよ!   滑り出しは順調でカタログに関しては、それまでの地方在住お客様に特に好評だ。ネット注文にポイントを付与する形をとったら、さほどコールセンターを稼働させなくてもいい状態で注文が来ている。これを機に携帯サイトもかなり充実させたのも良かったみたい。   自社ビルの直営店も、事前の宣伝効果があって、オープンは入場制限をしなければいけないほどの大盛況だった。   お陰様で、来店数も売り上げも期待以上。 .
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