8 six month later

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「お父さん。いままでありがとう。これからもよろしくね」   お父さんは少し涙ぐんでから、顔をくしゃくしゃにして笑った。 「幸せになりなさい。だめだったら、いつでも帰ってきなさい。いつだってあの家はお前の家なんだから」   ありがとう。お父さん。でも大丈夫。政基とならきっと、たぶん大丈夫。   そろそろお時間ですよ。と式場のスタッフが声をかけにきた。私はお父さんの腕を取る。   ドレスは腰までマーメードラインで腰から下はゆったりとした裾が広がっている、あれほど多忙だったのに麻衣子が、ドレス選びに付き合ってくれた。 「うふふ。これなら、誰もが花婿に"I'm envy you"だわ。百合江ちゃん。これにしましょ」   そう、なかば強引に決められたけど、私自身もとても気に入っている。   長い裾を引きずって歩きたかったから、腰から広がる裾までのラインが気に入った。   一歩ずつ、バージンロードを歩く時にその重さを感じたくて。   重さ? 何の重さなのかな? そんなに長くないけれど、今まで生きてきた自分の足跡の重さかな? その重さを、政基が引き受ける。   そして、私も政基の重みを引き受ける。純白のドレスは、心に喜びと輝きを持たせてくれる。   子どもの頃に夢みていたお姫様に、生涯のうちに一度だけなれる瞬間なんだろうな。   シンデレラ、眠り姫、白雪姫。やっぱりお姫様たちのその先は結構大変なんじゃないかな?  めでたしめでたしまでは魔法使いや小人さんたちが助けてくれても、その先は、きっと他力本願じゃつくれない。自分で掴みとらなきゃいけないんだ。   本当にハッピーエンドかどうかなんて、棺桶に入るまできっと分からない。 これからもいろんな事が待ち受けているに違いない。   お父さんの腕をしっかりと掴み直す。両親に愛されて育まれた自分がいとおしく思える。大事に大事にされた記憶は宝物。 .
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