7 relight my fire

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私は会社のエレベーターのボタンを押している。いつもながら、なかなかエレベーターが来ない。早く四角い箱に乗り込んで自分の姿を隠してしまいたい時に限って、階数を示すランプの数字が小さくならないのはどうしてだろう。   あれから政基のマンションへ行き、その足で私のマンションへ一緒に帰った。時間の流れもすっかり忘れてしまうくらいお互いに溺れて、週末が終わると政基は名残惜しそうに帰った。   私は今、自分がどんな顔をしているのかが気になってしょうがない。たぶんさやかちゃんもびっくりの満腹の猫の顔になっているに違いない。そんな自分に少しばかり戸惑っている。   エレベーターがようやく来た。私が乗り込んでから、さやかちゃんがすうっと現れた。 「百合江さん。おはようございます」 「おはよう」   無心にならないと。と思えば思うほど無心にはなれない。   さやかちゃんは今日もゴロゴロと喉がなりそうな顔をしている。ひょっとしたら私も? そう思うと頬に赤みが差す。そんな私の様子を見て、さやかちゃんはニヤニヤ笑った。 「どちらを選んだのかは、後で麻衣子さんとじっくり聞きますけど、ずいぶん楽しい週末だったんですね」   まったく。ここじゃあ隠し事は何一つできないのかな。   私は今日も外出が多かったので、石崎君とは朝、何事もなかったように挨拶をしただけで終わった。私が帰社すると既に石崎君は帰宅していた。   麻衣子とさやかちゃんが、ニヤニヤとこちらを見ている。ターゲットの私を狙っている。 いくら何でも朝、石崎君のいる前じゃ話なんかできないし、二人とも演技派だ。それまで、まるで何も気に留めてなかったかのように振る舞っていたくせに。   あーあ。根掘り葉掘りコースだな。 「百合江ちゃん、今日何が食べたい?」   麻衣子がお決まりの黒い笑みを浮かべる。まったくもう。私は、もうどうとでもなれという気分で、食べたいものを考えた。 「パルミジャーノのリゾット食べたい」   さやかちゃんが爽やかに笑う。いや本当のところ爽やかではないけどね。 .
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