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「アドレナリンの勝利ですか? 池上さんって百合江さんのアドレナリンをかきたてた唯一の人なんですよね?」
うん。そうかもしれないね。これは頭じゃなく本能のジャッジだと思えたから。
「まあ、池上政基が来てからの百合江ちゃんの動揺振りを見ていれば分かりきった答えよね」
麻衣子は最初から私が政基を選ぶ事を確信していたのか。それならそうと言わない所が麻衣子の腹黒くも温かい気遣いだ。自分で考えて答えをだせって事だね。私はマリネを一口食べてから、口を開いた。
「まあ。そういう事だから」
「あっ。百合江ちゃん、妊娠は悪いけど、私の赤ちゃんが産まれてからにしてね」
もっと他に心配するとこないわけ? 分かってますよ。代表二人がどっちも妊婦じゃ困ることくらいは。
「分かってるし、それに、政基とよりを戻したからって、すぐに結婚だの妊娠だのって展開にはならないよ」
麻衣子はアンティパストの皿をあっという間に空にした。つわりとかまだないのかな? やっぱりお腹が空くものなのかな?
「池上政基がそんな、ちんたら百合江ちゃんの様子をうかがうような事ないわよ。すぐに結婚って言い出すに違いないわ」
なんか、私よりも政基の事を熟知しているような口振りだな。そうなのかな? 仮にも一度失敗しているわけだから、ここは慎重にいくんじゃない?
「麻衣子さん、明日のミーティングで発表しますか?」
さやかちゃんはまだ半分しか空いていないアンティパストをちまちま食べながら麻衣子に言った。
「そうねえ。こうなったら早いほうがいいもの。みんなには更に馬車馬のように働いてもらわないと。うふふふふ」
怖い! いくら慣れてても、今の麻衣子の微笑みは私の背筋を凍らせた。でも、これからいかに仕事が過酷になるかは簡単に想像がつくけど。
麻衣子。政基がもしも、結婚なんて言い出したとしても、私には今は結婚する準備なんて一切する余裕ないぞ。
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