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「どっちだ?」
「したいです」
「よし!」
政基の「よし」はまるで、上手にフリスビーを取りに行って帰ってきた犬を褒めるような言い方で、更に頭までガシガシ撫でられて、それが妙に居心地よくて、私はなんだか悔しかった。けれど、あっさりと人生が大きく変わる事を決めた事は妙に自分を清清しい気分にさせた。みんな、決める時はさくっと決めるのかもしれないな。
なんだか、あまりにも麻衣子の言うとおりになってしまって、それが少し気にくわないけれど、きっとこれでいいのだ。政基はゆっくり体を離すと、またじっと私の様子を眺めた。
「そんなに見なくてもいいじゃん」
「いいだろ? 見ていたいんだ百合江を」
私たちは楽しく食事をした。週明けはまた麻衣子のしたり顔を見ることになるのか。私はそう考えながらも、頬がゆるんでいた。なんだ、嬉しいのか私。
食事を終えると、私たちはソファーでくつろいだ。
政基はふいに立ち上がって、CDラックに向かうと、一枚のCDを手に取る。
「懐かしいなあ。これあの時の?」
「そうだよ。政基がくれたやつ」
オアシスの『Whatever』政基は当時オアシスが好きだった。私はよく知らなかったけど、一緒に聞いているうちに、すっかり気に入って、ジャケットの空の絵に魅せられて、政基にねだった。そう言えば、政基と別れてから一度も聞いていない。
「かけてもいいか?」
「うん」
政基はケースからCDを取り出して、ゆっくりと、コンポの中に入れた。懐かし過ぎる音が流れ始める。政基は、私の隣に座った。二人ともなんだか胸がいっぱいになっている。止まっていた時間が動き出したような気がした。自分の目がすこし熱くなってきたのを感じていると、政基が呟く。
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