無上の清涼飲料水

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「お前、またこんなところでサボっていたのか?」 「部長には関係ないでしょう」 「大アリだよ。部長だからこそ大アリだよ」 丸茂は俺のとなりまでやってきて、胸に抱えていた水滴だらけのサイダーの瓶をパプシュッと開けた。 丸茂はまるで狸のようなずんぐりむっくりで、制服のシャツは今にもはち切れそうだし、日焼けたまん丸の顔は汗で洪水状態だし、できるだけ夏には近づきたくない奴だ。 だが夏に限っては、どうしても近づかなければならない。 「今日もサウィダー部の練習がある。それに一週間後には対面式だってある」 「ふぅん」 「ふぅんじゃない! 清戦まで、もう二週間しかないということなんだぞ!」 「清戦なんて、行っていられないですよ」 清戦なんて、清涼飲料水を好き勝手ぶちまけるだけの、お遊びに過ぎない。目的だってよく分かっていないし、毎年勝てないし……やる意義がない。ならば同日に催される夏祭りに行った方が、よほど高校生活を送る上では懸命だ。 「参加は絶対だ。もしサボったら、清涼の精に何をされるか分からん。もっとも、オレは清涼の精を見たことはないがな」 そう言って、丸茂は自嘲気味に呵呵と笑った。 俺も清涼の精は見たことはないが、清涼の精を見られる素質のある者が、毎年各部に集められているらしいという噂もある。 丸茂は我らサウィダー部の部長であるにも関わらず、未だそれらしきものを見られていないらしい。まぁ、清涼の精もこんな暑苦しい狸の前には現れたくないのだろう。
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