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「まぁ、そのうち拝めるだろうけどな!」
何故かサイダーの瓶に口を当てながら言ったので、口の端の方から、サイダーがちょろちょろと溢れ出た。丸茂は太い人差し指でそれを押さえた。
この馬鹿で暑苦しい狸のせいか、うちの部内では清涼の精を見たことがある者は一人もいない。……と言っても、メンバーは俺と丸茂を含めて六人しかいないのだけど。
他の部内では、スーパーの清涼コーナーで見たとか、かき氷に埋まっていたなどという嘘くさい噂が蔓延しているようだ。大方、みんな面白半分に法螺を吹いているだけだろう。
中には怪談じみた噂を流す阿呆な奴もいて、これには流石の俺も憤って、カコーラ部の適当な奴の鞄をあれこれ手を回して入手し、成人男性が嗜むはずの書物をそっと忍ばせてお返しした。
「いやぁ、実に美味いな!」
丸茂が俺の方にプハァ、とサイダーをまき散らしてきた。
俺は大袈裟なくらいに眉をひそめて『川に落ちろ』という視線を送ったが、丸茂は「すっきりした!」と天に咆えるだけだ。川に沈んで、もっとすっきりしてくれば良いのに。
この馬鹿が部長になってしまった今年の清戦は、もう俺たちに勝ち目はない。それなのにも関わらず、丸茂は俺をしつこく練習に連れていこうとする。
「お前さ、遠藤先輩のことが忘れられないんだろう?」
丸茂は馬鹿な狸であるが、ときどき思いもよらぬタイミングで痛いところを突いてくる。
たしかに、俺は去年引退した遠藤先輩のことが忘れられないのだ。
この川では、遠藤先輩と一緒にサイダーを飲んだり、サウィダーの話をしたりした。
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