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“すみれ”の家に泊まった翌日。聖は何時も溜り場にしている駅前へと向かった。
急ぎ足で擦れ違う人混みの中で時折肩が打つかって、それでも皆何も無かったかの様に歩いていく。それが当たり前になってしまっていた。
「聖、こっち」
人混みの中から聖を見付けて神汐綺斗(かみしおあやと)が手を振った。それにクスリと小さな笑みを浮かべて聖は歩み寄る。
「遅かったな」
「悪い、アイツしつこくてさ」
苦笑を洩らしながら近付いてきた聖にベースのチューニングをしていた弥代晶人(やしろあきと)が、顔を上げて僅かに眉を寄せた。
「聖、女物の香水の匂いがする」
「あぁ、アイツのだろ。家中香水臭かったからな」
「聖くんは相変わらず女泣かせだねぇ?」
二人とはバンド仲間だ。ほぼ毎日同じ時間に駅前に集まってストリートライブを遣っている。
「…綺斗、俺のギターは?」
「無視しやがったな…」
ピクとこめかみを揺らしながらも聖にチューニング済みのギターを渡してやる。因みにアンプもギターも持って来たのは綺斗だ。
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