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「なんで、俺はもう一度、殴られてるの?」
叩かれていなかった頬を思いっきりぶっ叩かれた。両頬がじりじりと痛み、少し先をズンズンと歩いていく千波は振り返ることなく、
「デリカシーがないからよ」
とだけ答えられた。デリカシー? 一応、俺なりのほめ言葉だったんだが千波には気にくわなかったらしい。
「さっさと歩きなさいよ。先輩、私、お腹空いてるんだけど」
「へーへー、食え食え、食っておけ、食って鍛えて、筋肉つけろ、お前は細過ぎって、なにすんるんだよ」
「先輩はもっと自分の発言に責任を持つことをしなさい」
食堂についた。そして、俺はそいつと出くわした。そいつとはここ一カ月ほどまったく話していないどころか、顔もあわせていない相手だった。
「よっ、ひさしぶりじゃねーか、後ろに居るのは篝火か? へー、お前らいつの間にか仲良くなってたんだな」
「…………」
「なんだよ。黙りなんてひどいじゃねーかよ。飯、食いに来たんだろ。だったらそれまで談笑でもしようぜ」
沈黙が続く、後ろにいる千波がオロオロとそいつと俺を交互に見比べる。千波は興味がないのか、俺から金をもらって食券を買いに行ってしまった。
「祢は、怒ってないの?」
「あん、怒る? 何に怒るって言うんだよ」
「何がって、僕はけっこうヒドいことしちゃったんだよ。事情もよくも知らずに襲いかかったし、問題だってややこしくしちゃったしさ」
「ああ、そんなことね」
「そんなこと!? そんことって何さ」
「何がも、何もじゃねーだろ。お前が気に入らなかったから怒った。それだけのことだろ? だいたいいちいち怒ってたらきりがないだろうが、特にこの学園じゃ模擬戦闘だなんて日常茶飯事みてーなもんだし、いつまでも引きずっても面倒くさいだけだろうが」
「…………っ、でも」
「はい、おまちどおさま」
と俺達の会話を打ち切るように、四人分の料理を置く。俺、千波のぶんはいい、ただ、海人と篝火のぶんまで置かれているんだ。
「千波よ。なんで、こいつらのぶんまであるんだ」
「先輩はいろんな人に迷惑をかけたんだし、これくらいしないとダメでしょ?」
「あ、いえ、あの狩須磨先輩、私、料金、払いますから」
と、篝火が懐から財布を取り出そうとする姿を千波が横目にみる。まるで、年下の女の子に出させようとしてるんじゃないでしょうねと言わんばかりの視線だった。
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