初夏、売りました

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 ―10年前― 「何でコレがダメなんだよっ」  放課後の夕焼けに染まる教室。  真宮寺くんはそう言って私に原稿用紙の束を投げた。 「部長だってさ、本当は分かってるんだって」  私は散らばった原稿用紙を拾いながら、悔しそうに唇を噛む彼の顔を見上げた。 「部長は頭が硬いんだよ!」 「……うん」  高校の文芸部。 部員は部長で3年の高部先輩と真宮寺くんと私。  最早同好会レベルの人数だが、ちゃんと毎月冊子を発行している真面目な部活だった。  純文学志向の部長と近未来的社会派小説を得意とする真宮寺くん。  正統派の部長からすると、この真宮寺くんの書く突拍子もない物語が気に食わないらしく、2人がぶつかる事も珍しくなかった。  私はと言えば、大した文才があるわけでもなく、かと言ってユーモア溢れる文章が書けるわけでもなく……。  とにかく好きと言うだけで、文芸部に籍を置いていた。 「真宮寺くんの小説はさ、本当に突拍子もないよね。だけど、なんか読むと楽しくなる」  私はそう言いながら拾い上げた原稿をトントンとまとめ、真宮寺くんに差し出した。  彼はそれを受け取りながら、 「だろ。でもさ、俺の書くフィクションは、いつか必ずノンフィクションになるんだっ」  そう言って、嬉しそうに笑った。  これが彼の、真宮寺司の口癖だった。
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