自己嫌悪

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けれど俺の思いとは裏腹に… 青木邸の完成視察に 東雲と前島さんが出かけた2日後。 誰にも何も言わずに東雲は 香港に戻ってしまった。 「冬木部長からの推しだけに 上も異議なしだったし どうにも出来なかった」 栗田さんの申し訳なさそうな顔。 「今からでも… 何とか出来ませんか?」 「無理だろ…。 香港の支社長は東雲が 何しろお気に入りなんだから」 …逃げ道すら俺には 許されないって事か…。 ならば…。 もう俺に出来る事はこれしかない。 それがあのデザインコンペの後 前島さんの背中を押す事だった。 二人の思いを重ねてあげる事しか 俺に出来る謝罪はない。 全てを打ち明けた俺を 一言も責めなかった前島さんと 電話をかけて来た東雲。 『小野さん… ありがとうございました』 電話の向こうから聞こえた 東雲の言葉に胸が カーッと熱くなった。 やっぱり俺は… もうお前に追い越されてたんだな。 そう思いながらクスリと 笑みを浮かべた。 窓の外を眺めながら ひとつため息を吐いて。 俺は覚悟を決めて 再び携帯を開く。 逃げ道のなくなった俺が しなければならない もうひとつの謝罪に 発信ボタンを押した。
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