157人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
おもちゃの指輪を買った彼は、私の手を取って言った。
「これ、靴のお礼」
冗談ぽく言うと、指輪を私の指にはめようとした。
・・・
「うふふ。小指にしか、入らないよ・・・」
子供用のおもちゃだから、大人の私には当然小さい。
私が笑うと、彼も笑った。
「おもちゃって、思ったより小さいんだね」
そう言うと、辛うじて左手の小指に入った指輪を抜き取ろうとした。
「いいの。小指につけとくから」
私は慌てて左手を引いた。
彼がくれた指輪。これがきっと形ある最後の思い出になる。どんな小さな物だって、彼が私のためにくれた物なら、私にとっては大切な物だった。
私の反応に驚いた彼が固まっている。
私も自分の行動が客観的に見れば不可解だと分かっている。別れてゆく相手がくれる物、ましてや子供用の指輪なんて普通は要らない。
周囲の賑やかさの中、私たちは無言のまま向かい合っていた。
そんな中、彼がポツリと呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!