別れの花火と可愛い女2

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時間で言えば、一分程度のやりとり。たったそれだけの時間なのに、彼の声が、優しい眼が、穏やかな空気が、一気に私をあの頃に連れ戻した。 あの頃のように自然に彼に触れるはずだった私の手。 それは不意に彼の手によって拒まれた。 彼は私の手首を柔らかく掴んだまま言った。 「ダメ・・・ですよ」 困ったような笑顔で見つめられ、私はようやくハッとした。 「ご、ごめ・・・」 自分の行動に驚き、掴まれた手を引っ込めようとした。 え・・・ 何? 頬を触ることは拒んだけれど、温度の低い手は私の手を離さない。 私は彼を見た。彼もまた私を見つめている。 懐かしい感覚が私を包む。 このまま時が止まればいいのに・・・。 そう思った時、後ろでエレベーターの扉が開き、数人の社員が降りてきた。 私たちは手を離し、急いで距離を取った。
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