体育祭 後編

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7月某日、雲一つない快晴で、体育祭に相応しい日和だ。 朱希の言っていた通り、心配していた設備の準備なども業者の手によって、文句の付け所がないものになっていた。 「あー、マイクのテスト中でぇす!それじゃあー第○○回海淵学園体育祭を始めまぁーす!」 と深海先輩の緊張感のない開会宣言と共に、体育祭の幕が開けた。 「えー、まず始めにぃ、理事長のお言葉を戴きたいと思いまぁす。」 理事長という言葉にキャーキャー騒ぎだす生徒達。どうやら理事長は特別な式典以外には表に出てこないため、レア感があるらしい。 「生徒の皆さん、折角の体育祭ですので怪我などに注意して正々堂々と勝負してくださいね?」 キラキラと光るのではないかと思うほどの理事長スマイルに顔を真っ赤にしてキャーキャー叫んだり、その場に膝から崩れ落ちる生徒達。 皆には理事長の左手薬指に光る指輪が見えないのだろうか。 「理事長いい攻め要員だー!」 隣には鼻息を荒くしてはしゃぐ朱希。てかお前も理事長が既婚者なのは知ってるだろう。 「妄想に既婚者かどうかは関係ないからね♪」 何故か心を読まれた。 理事長が去っても興奮の冷めない周囲に、進行が滞る。 「黙れ」 誰もが平伏すであろう圧倒的な威圧の声が発せられる。誰かなんてすぐに解る。 「じゃあ会長からぁ一言ぉ。」 俺達の前に毅然と立つのは、この学園に君臨する我らが生徒会長、獅童劉明先輩だ。 「よく聞け。 この俺に迷惑はかけるな。 そして、 この体育祭を楽しめ!」 劉明先輩がそう言い、その場を去ると、静寂に包まれていたグラウンドが一気に騒然となった。 たぶん先輩なりの激励なのだろうと解釈した。
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