一章

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「ふむ。そういえばそんな噂があるとかないとか。コホン!」またもや咳払いを一つ。「それについてははっきりと言える。お前らも知っている通り、瀬川はSランクだ。……だがな、Sランク=《最強》というワケではない。勘違いをしている輩が多いが、Sランクは《危険》であって、《驚異》とは別の概念だ。分かりやすく例えるなら、《驚異》はガン細胞であって、《危険》とはガンそのものである。つまりだ、瀬川はお前らの中で唯一ガンになってしまった悪性腫瘍ってことだ……それは決して、名誉なものではない」 「さり気なく酷いこと言ってない?」  何故かシリアスな雰囲気で語る百華は、少し憐れむような目で暁人を見つめる。 「そしてもう一つ。もし仮に低ランクの者が高ランクの者を倒したとしても、『観測者の備忘録』の認識は変わらない。お前らが生まれた瞬間に、あれはその者の一生を見定める。決して途中で認識を改める事なんてないのさ。…………となるとだ、ここにいる馬鹿も、一生(危険)という認識から外される事がなくなる。それは永遠に、この国の柵から逃れられないという意味だ……」  そして何故か暁人の頭にポン、と手の平をのせ、ゆっくりと動かした。まるで雨の中、捨てられた子犬を思いやるかのように。 「コイツはアホだし、馬鹿だし、能力だって意味わかんないし、空気読めないし授業妨害するしクラスの邪魔者でしかないけど、……それでも、私達二年三組の生徒なんだ。瀬川はこう見えても色々苦労している……多分。なんせ常に国家から監視されている身だからな………だからお前ら、」 「サラッと酷いこと言ってない?」  そして何故かクラスメイトの誰もが瞳をうるわせ、暁人を一真に見つめた。 「こんな奴だが、困っている時は手を貸してあげてくれ……」
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