一章

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百華は渋い顔をうつむかせ、声を絞らせる。その悲愴の篭った一言が感受性を豊かにさせたのか、教室は途端に沈黙を貫き、そして 「せんせぇ~!」「勿論ですよぉ~!」「こんな僕でいいなら喜んで手を貸しますよぉ!」  歓喜の渦が巻き上がった。一瞬にして、ここ二年三組に青春オーラが立ち込める。学園ドラマの卒業間際のワンシーンみたいな光景が、暁人に入り込んだのだった。それはとても美しく、感動的、 「うん……え、なんで俺同情されてんの?」  ではなかった。というか暁人は意味が分からなかった。しかし、困惑する暁人に構わず二年三組は響めく。 「瀬川」頭から手を引き離し、今度は両肩にのせる。「私は知っているぞ……」 「は、はぁ……」  真剣な眼差しが、暁人を捉えた。 「こう見えてもお前は……お前は……えっと、あれだ……あの~、あれ」 「え……な、なに」 「ほらっ、あの……そう! お前はな……こう見えても、」 「――馬鹿なんだ」 「うん、……え? あの、どう……どう捉えればいいの? 悪い意味とか良い意味とかそう言う感じで?」 「いや、別にそういうのではない」 「ただの罵倒だったよっ!」 「いいから聞け瀬川。お前は確かに馬鹿だが、Sランクという大きな天命を抱えている」 「……はぁ、……まぁそうっすね」 「馬鹿というのは否定しないんだな(ボソッ)……とにかく私から言えるのはこれだけだ」  一大決心をするのか、百華は大きく息を吸い込み、間を溜めてから堂々と言った。 「馬鹿は馬鹿なりに頑張れ!」  それは、今の暁人にはとても響く、心を震わせる一言。そして同時に考え込んだ。腕を組み、手を顎にあてる、そんな知的な姿を見せる。だがやはり馬鹿なのか、暁人はどうにも腑に落ちなかった。 「うん……えっとさ。……何となく、何となく元気づけようとするのはわかるんだ。わかるんだけれども……」
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