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暁人にも、日常というものは存在する。別に特別なことではなく、それは普通の学生と同じで、朝起きて、学校へ行き、授業を受け、放課を迎え、自宅に帰宅する。監視対象とはいっても、一応様子見というワケであって、一日中個室に幽閉させるといったわかりやすい監視は行わない。それは、人外区域が一つの籠であるからという理由もあるが。
その為、暁人にも人並みの自由があり、こうして放課後は自由気ままに過ごすことが多い。
ある日は商店街へ寄り、ある日は娯楽施設に寄り、ある日は飲食店に寄り、平均的な高校生の生活順序を模範したかのような、そんな一面が彼にもあるのだ。だが、それはある日という不確定要素であり、そのある日以外は平均的高校生から少しずれた日常を送っていた。
一体どんな物か。それは暁人が今まさに遭遇している状況のことで、
「よぉ、本当に来るとは思わなかったぜ。区域最強のSランク様は、人情が堅いってのは本当だったらしいな」
「っふ……俺はSランクである前に一人の男だ。男が目の前の勝負から尻尾巻いて逃げるわけにはいかないだろ?」
「っふ……確かにそうだな。じゃ、早速始めようか、正々堂々……最強を賭けた決闘を――」
決闘。それがある日以外の正体だった。Sランクを倒せば最強になれるという、根も葉もない噂が存在するお陰で、こうした事が希に起こるようになってしまっていた。
流れの緩やかな河原。心地よい青嵐が、肌を朱色に照らす絡みつく様な熱を拐い、河岸に生い茂る草原を揺らす。光の屈折で太陽が何倍にも大きく膨れ上がった夕日が、風潮な音をたてる川面のさざ波に反射して輝く。
そんな初夏の風景を彩る中、河川に架かった橋の下辺りで、男たちは対峙していた。
一人は暁人。人外区域内では中々の人気を誇る、深緑がベースとなった制服。そのブレザーから、赤いネクタイを覗かせる格好で腕を組み、仁王立ちをしていた。
顔立ちは良くもなく悪くもなく。髪型は目にかからない程の黒い前髪、耳には少し被さり、襟足はギリギリ襟に付かない程度。そんな普通を象ったような容姿を持つ少年が、暁人の印象だった。
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