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「っふ、火傷しても知らねぇぜ」
口元をニヤリと釣り上げ、颯爽に透き通った風が前髪を靡かせる。まるで戦いの猛者のような雰囲気を出す暁人に、学ランを纏った目の前の男は後ずさった。一筋の汗を垂らし、顔を苦める。
しかし、それは暁人も同様だった。先程から土手の先。河川敷でこの二人の対峙を傍観する下校中の学生等対し、こう思っていたからだ。
(見てないでさっさとCP呼べよぉおおっ!)
という弱音を。
それもそのはず、いかにもやれる男を演じている暁人だが、実際の心境は焦燥状態。当たり前だ、戦える能力など持ち合わせていないのだから。
「っふ……来いよ」
それでも見栄を張ってしまう。多分、彼にもプライドというものが存在するからだ。元々Sランク=《最強》という尾ひれがついた噂だが、一度持ち上げられてしまった以上、幻滅されたくないのだろう。実際、浮かれていたのも事実。だからこそ、イメージを壊さない為にもこうして決闘を受けていた。
そう、内心では戦いたくない、だが時すでに遅し。
「っく、……い、行くぜっ!」
学ラン少年は両手に拳を作り、ファイティングポーズを決める。それが戦いの合図になったのか、暁人も決心し、腰を低くして戦闘態勢に入った。
「……来い! 『最強』の力、とくと見せつけてやろ――……ちょっと待った」
しかし、腹をくくったかのように見えたはずが、学ラン少年が踏み出すと同時に、暁人は停戦の声を吹きかけた。
「はいストップ。はいストップ」
「あ? ……何だよ?」
厚かましいお願いにもかかわらず、心優しく言葉を受け止めた学ラン少年。だが、そんな親切心に対して全く労わない暁人は、少し考えて、静かにいった。
「うん、あの~……それ。その後ろ、後ろにいる二人は何? あれでしょ? なんか審判的なやつとか、傍観者的なやつとかそういうのでしょ?」
その言葉は、学ラン少年の後方に並ぶ、もう二人の少年に対して放った言葉だった。
「は? 何言ってんだオメェ……仲間に決まってんだろうが」
「え、ちょっと。な、仲間? 仲間って何? 一緒に戦うパーティ的なあれ?」
「あたりめぇだろ」
間髪いれずに出た答えに、暁人はぎょっとする。なぜなら、いくら能力が使えないとしても、助けが来るまでの時間稼ぎをする自信があったからだ。
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