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始まりが何だったのか、彼には分からない。
だとしても、原因はどこかで生まれ、今も尚、結果に向かって進んでいるのは確かだ。
因果。彼には、それを創り出す力を持っている。多分それが、この物語の始まりを司る原因。全てを取り巻く、創成因果の根源なのだろう。
だとしたら、物語のプロローグに該当するきっかけは、あの時、あの瞬間。
それは、彼にとって、日常というタイトルの台本を淡々とこなしていく日々で、その日も普段通り、台本通りの日常を平穏に過ごしていた。
だが、イレギュラーは起こった。彼の部屋、ベットの上でくつろいでいる時、有り得ない事象に直面したのだ。
「ッな、ちょ――嘘、……だろ?」
彼は、目の前の光景に愕然としながらも、何とか自我を保たせ、今起きている現実を、半信半疑で受け止める。
有り得ない。信じられない。絶対的に確率が零に等しいその事象は、彼の驚愕など目にもくれず、刻一刻と、サンプル画の様な短調で素朴な彩りを見せる部屋模様に漬け込んでいく。
光だった。輝きだった。幻想的な、微睡みを誘うような優しい明かり。
そんな神々しい輝きは目一杯に広がり、恍惚とさせる聖なる光は金色に世界を染め上げた。彼にとって日常の背景である十二畳間の部屋を、黄金に彩る。そして、
――そいつは現れた。
「……んあっ」
声は、声帯を震わせただけで、言葉に成り損なった不明瞭な響きだった。それくらい、息を飲み、言葉を詰まらせるくらいに、それは――その少女は、美しかったのだ。
まるで現世に成し得た幻影の姫君。御伽噺に出てくる様な少女。肩を覆る程のショートは、真っ白な雪色に浸透し、鮮やかに魅了させる。前髪が擽る目元は少し尖った瞼を見せ、全てを見透かした様な、そんな黒の瞳が、心を掴み、呆気にさせる。小顔と言える可愛らしい外見だが、雰囲気は凛々しく、美しかった。
どうしてだろう。何故だろう。彼には分からなかった。
いきなり、自分の右手から少女が《創り出される》なんて。
今まで、そんな事は無かったからだ。
しかし、創成された少女は彼とは違い、狼狽え、動揺する素振りなど微塵も感じさせなかった。それどころか、彼女は唖然と硬直する彼の膝下まで身体を前かがみに仰け反らせ、顔を近づける。そしてこう言うのだ。
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