一章

18/24
前へ
/191ページ
次へ
「ちょっとホント何これ。ドライヤーってマジ肩透かしだわ。これじゃ――ってえ? なになにっ? 今タイムって言ったじゃん!」 「知らねぇよそんな事! 喰らえ!」  明らかに不意――暁人が勝手に油断していただけだが――を突かれ、学ラン少年の右拳が暁人に向かって距離を詰めていく。それは何らかのプラネットパワーなのか。その拳は炎のように赤く色を際立たせ、煙が手の甲から噴出する。まるで熱した鉄に水をかけた時の蒸気のようだった。  当たればただでは済まない。それは、暁人自身も感づいた。しかし、避ける事は出来ない。そんな反射神経は持ち合わせてはいない。彼は能力こそは異質だが、それ以外は平凡。いや、それ以下だ。  だからこそ、この一撃は頬を打ちのめし、『最強』という看板をも打破されるであろう。 しかし、それは有り得ない。彼は、国の監視、及び護衛対象なのだから。 「――ぐわぁああ!!」  断末魔の悲鳴が、河川敷に響き渡った。だが、暁人ではない。  それは、先程まで勝利を目論んでいた少年等によるものだった。  一体何が起きたのか。何が起きているのか。順を追って説明するならば、まずは風。  一陣の強風が、暁人の周りを包み込んだ。それはどう見ても自然的な現象ではない。まるで彼を守るかのように、草原の草をむしり取り、巻き上がる竜巻が現れたのだ。  そしてその竜巻は徐々に範囲を広げ、彼等を巻き込む。人でさえ悠々と持ち上げるそれは、ハンマー投げの様にぐるぐると少年達を回し、そのままあさっての方向へ飛ばしたのだった。 「えっと、これは一体……」  風が靡く草原でただ一人。暁人はぽつんと佇んでいた。  一瞬の出来事で、何が起きたか分からない彼は、カチカチ、とドライヤーのスイッチを何度も押しこむ。静寂を迎えたこの場所で、ドライヤーのスイッチ音や河川のさざ波の響き、カラスの鳴き声が一斉に入り交じっていた。 だがそこに、新たな音が入り込む。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加