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「ホントさぁ……めんどくさいから問題起こさないでよ?」
透き通るような耳障りの良い響き。印象を持たせる張りのある声が、暁人に降りかかった。
場所はどこだろうか。キョロキョロと辺りを見回すが、声の主、それどころか人でさえ見当たらない。しかし、暁人は直感で感じ取った。そいつが誰なのか、どこにいるのか。
「はぁ……はいでた。神出鬼没の《死神》さん」
ため息混じりにそう言うと、暁人は顔を空に向けた。そしてそのまま身体を後ろに向ける。
川に架かる橋に目をやると、そこには手すりに腰を掛ける一人の陰。後方の沈みかけた夕日の色が鮮やかに染まり、影が作られた顔からは表情が読み取れなかった。
「うるさい。私を都市伝説みたいに言わないでよ」
少し苛立ちが込められた低音で言うと、その人影は橋の手すりから飛び降り、草原に着地した。橋と地面の差は五mを優に超している。しかしそいつは、無衝動。地面スレスレでふわりと身体が浮き、静かに足を着けた。
「で? こんな所で何やってるの?」
足を着けると同時に腕を組み、ピリピリとした威圧で、彼女は暁人に詰め寄った。
彼女。暁人の目の前に現れたのは、一人の少女だった。それもただの女の子ではない。
風見夕菜。暁人と同じD地区第十三学園の高等部所属、そこの一年生。歳が一つ下だが、大人びた印象は、年上に見えてしまう外見。
学園では良くいる茶髪のロング。だが、同じそれとしても夕菜の場合は格が違う。
流れるような茶色の長髪は背を隠し、前髪が少しかかる目尻の切れ込んだ二重が、可愛さと凛々しさ、そして美しさを兼ね揃えていた。くっきりとした鼻立ち、その下のふっくらとした艶やかな唇が少し淫乱さを漂わせる。学園のあだ名はお姫様。一年生にして全校生徒に知れ渡る、高嶺の花だった。
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