一章

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しかし、夕菜にはもう一つのあだ名が存在していた。学園では無く、人外区域で聞きわたる異名。 「決闘ですよ決闘。……《死神》さんこそここで何してるんですか?」  《死神》。それが夕菜の恐れられた異名だった。 「次その名を読んだら首を吹き飛ばすから。……マジで」 「すいませんでしたぁ! ……って女の子がそういう事言わないでっ! あとさり気なくマジを足すな! 冗談に聞こえなくなるから!」 「冗談? ……あぁ、冗談ね冗談。……っふふ」  夕菜はキョトンと首を傾げ、少し考えてからクスリと笑みを含ませて言った。 「え、何その感じ。冗談のつもりじゃなかったみたいなそのあれ、え? ……やばいよ。怖いんですけど」  笑み共に送られる冷酷な視線に戸惑う暁人は、本能的に、無意識的に、反射的に、彼女から足を退けた。でもそれは、夕菜の威圧に屈しただけというワケではない。  《死神》という異名。そしてその名の根源。彼女は、この人外区域内に存在する最高ランク、Aランク保持者だった。  区域内ではたったの0.7%しか存在しないAランクは、嫌でも目立つ存在であり、《死神》と言った通り名が付く場合が多かった。因みに夕菜の《死神》の意味は、彼女のプラネットパワーが『風操術者』〈エアロマスター〉という風を操る力であり、それによって起こされる鎌鼬の鎌から連想されて付いた物である。  では何故彼女の様な存在が、暁人の目の前にいるのか。それは簡単な事で、 「冗談よ……ったく。ホントにそろそろやめてよね、そういうの。警護者の身にもなってよ」  警護者。夕菜は国家機関、CP直轄の『秩序の番人』〈オーダメイト〉と呼ばれる人外区域治安部隊のメンバーであり、さらには暁人の監視、及び護衛を命令されていた。  その為、毎日こうして暁人の世話を焼いているのだ。 「いやでもさ。しょうがないんだって。決闘を申し込まれたら受けなきゃだめじゃん?」  しかし、そんな夕菜の苦労も知らず、暁人は能天気に毎日を過ごす。既に飽きられてもいい程だが、それでも夕菜は、この任務を辞退しようとはしなかった。多分、世話女房なのだろう。 「そんなの断ればいいでしょ? どうせ戦えないんだし」
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