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「お~い。暁人様が帰ったぞぉ~」
静寂が目立った廊下をトボトボと歩く暁人は、寂しさを間際らせる為か。誰かを呼びだすかの様に、声を張り上げながら進んでいく。
階段を上がり、三階にある自分の部屋に到着した時だった。ドアノブに手を当て、少しばかりの安堵感に浸っている背中に、声がかかる。
「随分遅かったのね」
「っうひゃ!」
深閑としていた廊下でいきなり放たれる声に、暁人は心臓を飛び跳ねさせて驚いた。
「な、何だ夕菜か……まじお前ビックリするだろ。お前は死神か」
「ビックリしたのはこっち……って、今何か言わなかった?」
戸惑いの表情から一転し、作り笑いが見え見えの笑みを顔に表わす。
「いやなんでもないですよはい。というか何をしていらっしゃるのですか」
「別に、ちょっとお風呂あがりに飲み物を買おうと思ってね」
なんで自販機はこの階にしかないのよ、と続けて吐き捨てる夕菜は、ほんのりと甘い香りを漂わせ、少し濡れた髪が、肩にかけられたタオルに垂れていた。
風呂上がりの美少女。濡れた女。そんな単語が当てはまる淫乱な印象を持たせる彼女だったが、暁人の心情は全く揺らいでいなかった。それどころか、
――ジャージとか着てるなよ。一応学園のアイドルだろ――などと、夕菜の紺色のジャージ姿を吟味している。
「……何? あぁ、もしかしてお風呂上りの私に興奮しちゃったの?」
「え? っはは。そんなわけねぇだ――」
「へぇ~」
「――いや全くその通りであります! 今日の夕菜様もお綺麗であります!」
本音は言えない。取り敢えず褒めておこうと思った暁人は、平然と夕菜を褒め称えた。
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