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「――ッハ……来る。来るぞ……あれが、来るっ!」
瀬川暁人は、そんな吐息にも等しい呟きを溢しながら、ある学園の備品である机。その上に置かれた右手を凝視していた。
生徒総数は三十三人。その人数分の机椅子がバランスよく並べられたこの二年三組の教室で、暁人だけが異色を放ち、窓際の最後尾で唸り始める。左手で抑えるように右手首を掴み、目を見開いていた。
「来た。……来た来た来た来た!」
先ほどよりも強く握り締めると、何のマジックか。右手が光沢を漲らせ、輝くように発光し始める。色は金色。まるで宝箱を開けたような神々しい輝きは、徐々に光を強めていった。
「き、来たぁあああああああああ――」
自らの手の輝きに興奮したのか、暁人は立ち上がり、静寂とした空気に声を張り上げる、が。
「――っ痛!」
バシッ。突然頭部に刺激が奔り、思考が麻痺してしまった。
「……な、何だっ?」
何事か、と顔を横に向けると、視線の先には尖った目つきで睨みつける女性の姿が、暁人の視界に入り込む。
「随分と元気そうで何よりだが……今は授業中だ」
そんな手厳しい眼光を飛ばしながら教科書を筒状にしている彼女の後方には、呆然とした少年少女が一斉に視線を向けていた。いや、呆然というより呆れたという方が正しいだろう。なぜなら、彼らは以心伝心に心中でこう呟いたからだ。――またか――と。
それもそのはず、暁人の授業妨害は今回が初めてではない。数えるのが嫌なくらい、それはもう毎日の様に突然奇声を上げ、ある力を発現させていたのだ。
「そんな事言ったってしょうがないじゃないかぁ」
「……何処かの誰かのモノマネのつもりか? 因みに全然似てないぞ」
「あ、はい。すんません」
口を尖らせ濁りが篭った声に対し、的確なツッコミで指摘したのは、この二年三組の現社教師、兼担任の三島百華。常に白衣を着込み、肩で切り揃えられた艶やかな黒髪、目尻が切り込んだ鋭い目つきが印象の女性教師である。
「はぁ……ったく。本来なら学園内でのプラネットパワーは発現禁止なんだが、まぁお前の場合はしょうがないか……」
暁人の発光している右手に気が付いた百華は、ため息混じりに言い放つ。
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