一章

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「大丈夫だモモッチ! 今ここに形成される物は、目の保養になるはずだ! ……姿を現せ、創造神による神の造物よ――…………って、ん?」 「……一体何ができたんだ? …………これは――」 「……香ばしい香り。……こんがりと焼きあがった細やかな衣。……凡ゆるスパイスによって降臨した独特の風味。これは、……これはまるで――」 「――カレーパンだな」 「――カレーパンじゃねぇか!」 ――空気が読めない。マイペース少年であったのだ。 「……っふ、ククク。確かに目の保養だな」 「ぐっ……そ、そうっすね」  暁人が漠然とする手の平に乗せられたそれを見て、百華は肩を小刻みに揺らし笑い出す。百華の微笑と暁人の苦笑。それはスパイスの効いた食欲を抱かせる薫香と混じり合い、教室内に溶け込んだ。 「さて、瀬川の能力発現が終わった事だし、授業戻るぞー……あ、そうだ瀬川。そのカレーパンしまっておけよ? 教室がシャレにならないほどカレー臭いから」 「う、うっす……」  憂さ晴らし。先程の態度気に食わなかった暁人に対し、百華は嫌みを言い放って、気分を晴らした。ニヤニヤと口元を釣り上げ、目を歪ませながら朗読を再開する。 「どこだっけ……ここか。ゴホン。関東地方全土を封鎖し、その区域を人外区域として設立した政府は、その区域だけの社会組織を組み立てるべく、ある委員会を創設。コミ二ティプロモート、CPと呼ばれるそれは、ほぼ未成年しか存在しない区域内の社会循環を目的とした公務員や企業が参入している。わかっていると思うが、私達教師もCPのメンバーだ――」
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