一章

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 つい数分前までの騒々しい雰囲気は打って変わり、静寂という本来の授業風景に戻っていた。教師が静止した空間に声を放ち、生徒らはノートに走らせる筆の音で均衡をつくる。それは、暁人にとってはとてもつまらないもので、結局窓の外に目を見やるという形で事は収まった。  因みにカレーパンも、暁人に収まろうとしている。 「――お前たちプラネッターは、常に『観測者の備忘録』〈データメーカー〉によって監視されている。因みに『観測者の備忘録』はプラネットパワーの驚異度をランクごとに区分する機能が搭載され、A~Gランクにまで分類している。Aランクに近いほど驚異度は高く、Gに近いほど脅威が無いとされている、のだが……お前たちも知っているよう、そのA~Gのどれにも属さないプラネッターが人外区域内に一人だけ存在する――」  百華は一泊溜め、くるりと身体を教室の隅に向けた。その視線の先には、億劫な表情で外の景色を眺める少年。 「――なぁ、瀬川」 「ほむっ?」 紛れもない。それは今悠長にカレーパンを咥えている、暁人に向けられた言葉だった。  そう。彼、瀬川暁人は、この人外区域内に存在する一千万弱のプラネッターの中で唯一、驚異度を保持していない少年だった。しかし、それは決して驚異が無いと言うわけではない。彼は驚異ではなく、 「あの間抜け面でパッとしない男が、人外区域内……いや、国ですら重要視している最重要人物、『危険度』Sランク。瀬川暁人だ。…………おい瀬川、覚悟はいいな?」  危険を保持した少年だった。  暁人は生まれた頃より『観測者の備忘録』という、日本が最新鋭の技術をもってして造り上げたスーパーコンピューターにタグ付けされた危険人物であった。暁人の能力は『創造神の右手』〈クリエイトハンド〉と呼ばれるプラネットパワー。凡ゆる万物をも創造してしまうという、神に等しい力……と、言いたいが。 「先生」一人の少年が緊迫した空間に手を突き上げ、立ち上がった。「質問いいですか?」 「構わないぞ。なんだ?」 「――あべしッ」  授業中に物を食べるといった違反行為に気が付いた百華は、颯爽に教科書を振り落とし、暁人の頭を叩き潰していた。それはもう、心地よい音が響き渡るぐらいに。
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