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「健太郎…?」
顔を覗き込んで、見た。
その顔に、涙の筋が…
解っているのか…?
母親にもう会えないかもしれないことを。
健太郎を抱き上げて、部屋に運んだ。
ベッドに寝かせて、肌かけを掛けてやった。
精神的に疲れたんだろうな…
初めての所にひとりで来たんだから。
有里の連絡先…
わかる訳ない。
10年前に探したときだって、結局見つけることができなかったんだから。
たしか…
昔、使っていたパソコンに住所録があった。
年賀状の。
俺は、
高校を中退した。
ちゃんと卒業していればよかったと思う。
学歴などの話になるとどうしても気後れしてしまう。
そんな自分がいやだ。
母ちゃんが、フラフラしている俺を、知り合いの店に無理やり放り込んだ。
それが、俺が板前修行をした和食の店だ。
「ここを辞めたら、もう二度と帰ってくるな。」
と、母ちゃんに言われた。
でも、甘えの俺は、
親元を離れて、朝から夜中までの仕事に馴染めずに、毎日辞めたいと思っていた。
そんな時に、有里がバイトに入ってきたんだ。
クシャクシャにして笑う笑顔が可愛くて、辞めたいと思っていた気持ちが嘘のように、
仕事が楽しくなっていた。
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