突然

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うん… 逢いたい。 逢ってみたい。 会って直接お礼を言いたい。 お礼を言うなんて言い訳。 ただ、逢いたいだけ。 いつも俺が眠る前に聞きたい声の持ち主が、どんな人なのか… 確かめたいだけ。 なんだ? 俺、言い訳してる。 自分に。 正直に逢いたいって思えばいいのに。 本当は毎日思っていた。 彼女の声を聞く度に、彼女を想像して思い描いていた。 きっともう… 逢ったこともない彼女のことを、 好きになっていたんだな… そんな自分の気持ちに気がついたのは、彼女の家を訪ねたとき。 朝早くから市場で仕入れをした。 仲買人には知り合いが多く、けっこういい材料が調達できた。 下拵えの必要なものは家で済ませて、クーラーボックスに入れて出掛けた。 「健太郎。 これから行く家には男の子が居るらしいんだ。 仲良くしろよ。」 助手席の健太郎の顔を見た。 緊張しているのか? 顔がこわばっている。 喋らないからな…お前は。
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