突然

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朝、出かける前に高林が手みやげにと、有名な店のケーキを持って訪ねてくれた。 昨日、話をしたから、手配してくれていたのだ。 まだ、開店していないだろう時間。 どんな手を使ったのか。 なかなか使える男だ。 その紙袋を健太郎に持たせて、俺は食材の入ったクーラーボックスを抱えてインターホンを押した。 家の塀がどこまでも続くような大きな家。 お嬢様なのか…? 有里も確かお嬢様学校に通っていたな… 「はーい。」 と聞こえた声は、彼女のもので… 一気に心臓がバクバクと激しく音を立てる。 「南です。」 声を落ち着けて、答えた。 玄関が開いて出てきた彼女は… ほとんどメイクもしていないきれいな人で… ほんのり頬と耳たぶがピンク色。 唇が艶やかに濡れて、 一瞬、息をするのを忘れた。 そのくらい、見惚れてしまっている。 淡い色のエプロンをして、何の飾りもつけない彼女は… まっさらな感じで、 すごく好感が持てたんだ。 有里と別れてから俺に近づく女は、香水の風呂にでも入って来たのかというくらいの匂いをさせて、 本当の顔はどんななんだ? というほどのメイクをした奴ばかりで… 朝目が覚めて、 こいつ誰だ? って思ったことが何度あるか。 こんなに真っ白で、ピュアな人は… ダメだ。 見惚れて声を出すのを忘れていた。
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