突然

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キッチンに立つ。 厨房のようなキッチン。 「ご立派なお屋敷ですね…それにこのキッチン。 プロ使用ですね。」 夕べ研いだ包丁を取り出し、板前の衣装を羽織り話し掛ける。 「元は両親と住んでいた家なんです。 二人の思い出が有るから、広すぎるけど売ったり貸したりしたくなくて… でも、この家が広かったから、二階にサロンを作ることができたの。 感謝してる…」 少し寂しそうに笑った彼女 彼女の話では、ご両親はもう… 深く聞かない方がいいな。 「父が料理が趣味だったの。だからこんなキッチンで。 二人分を作るには広すぎるんです。 健司さん、さすが料理人ですね! そんなお姿が見れるとは思いませんでした。 本当に大丈夫だったんですか? お時間。」 心配そうに見つめる瞳に吸い込まれそうになる。 でも、そこは大人の男だ。 冷静に冷静に。 少し声を抑えて、 「もちろんです。 今日は今までのお礼の意味も込めて作りますね。」 少し甘めに微笑んだ。 どうだ! だいたいの女はこれで落ちたぞ? 「父を思い出します。 なんか… すごく懐かしい… あ、ごめんなさい。二つしか違わないのに。」 お父さんか… 撃沈。 顔に出さないように笑う。 「私、何をしたらいいですか?」
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