目眩

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健太郎が学校に通いはじめってしばらくは、帰る時間に家にいったん帰ってみていた。 もう夏かという暑い日に、アイスクリームを買って帰った。 俺の大好きなあずきバー。 「おかえり。 暑かったろう? アイス買って来てやったぞ。」 「うん。ただいま。 ありがとう。」 そう言って出してやったあずきバー。 「あずきバー、やだ。」 一言。 え? 子どもはあずきバー食べないのか? 「なんで?うまいぞ食って見ろ。」 「やだ。ガリガリ君がいい。 お母さんはいつもガリガリ君を買っておいてくれた。 お母さん… お母さんに会いたい。」 べそをかきそうになる。 「わかった、わかった。明日はガリガリ君を買ってきてやる。今日は我慢しろ。 スナック菓子でも、食っとけな…」 そう言って何とかなだめた。 些細な事で母親を思い出してしまう。 気をつけなければ。 「おじちゃんは、僕の本当のお父さんなの…?」 そうなんだ。 そこをはっきりあせておかないと、健太郎も不安だよな… 「ああ。そうだ。」 でも、ここで俺が答えに迷ったら健太郎はよけいに不安になってしまう。 だから、そう答えた。 「嘘だ。そう思っていないくせに。」 健太郎がそう思うのは当たり前だ。 会社ではお父さんと呼ぶなと言ってしまったんだから。
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