目眩

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「私は… 在日二世なの。 こんなこと今日初めて会った方に話してご迷惑でしょうけど、 両親は、戦後の高度成長期に日本にきて、事業を初めて。 いわば、外国人の成り上がり。 今では成り上がりっていい言葉でしょうけど、親の代の人たちはいい印象がないみたいで。 柊の父親のご両親もそうだった。 猛反対されてね。 苦しんでる彼を見たくなかった。 だから… サヨナラを言ったの。 柊がおなかの中に居ることはわかっていたのに。 父親のいない子どもになるとわかっていたのに。 私の独りよがりかもしれない。 でも、生まない選択肢は私にはなかったの。 柊がいたから生きてこれた。 両親が不慮の事故で一度に居なくなっても、柊が居てくれたから、頑張れた。 有里先輩も同じだったでしょうに…」 美結さん… 有里と同じなのか? いや違う。 有里は勝手に居なくなったんだ。 健太郎ができてるとわかっていたら、なんとしも連れ戻していたはず。 今そんなことは関係ないけど。 「その方は今、どうされているのかは…?」 少し微笑んで首を横に振る。 「もう何とも思っていませんから、いいんです。 柊は私だけの子ども。 会いたいとも思いません。」 そこにチャイムが鳴った。 重厚感のあるチャイム。 「お客様がいらしたみたい。」 今までの美結さんとは別人のような笑顔。 彼女は… こうやって笑顔を作って生きてきたんだな…
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